ビジネスではよく、
「顧客の要望に応えることが大切だ」と言われます。
確かにそれは間違いではありません。
ですが私は、ここに一つ大きな落とし穴があると感じています。
それは、
「顧客の望みを全て叶えること」が、
必ずしも誠実な供給とは限らないという点です。
適切な供給を考えるとき、
最初に決めるべきなのは
「何を提供するか」ではありません。
顧客の需要に対して、
どこまで責任を持つのか。
ここを曖昧にしたまま供給を始めると、
ビジネスは簡単に歪み始めます。
適切な供給とは「責任の範囲」を決めること
顧客の需要は、たいてい曖昧です。
- 稼ぎたい
- 不安をなくしたい
- うまくいきたい
これらは一見、単純な要望に見えます。
しかし実際には、その裏に無数の工程が含まれています。
供給者の仕事は、
その需要の全体像を理解した上で、
自分が責任を持つ範囲を切り出すことです。
全てを引き受ける必要はありません。
むしろ、引き受けない部分を明確にすることこそが、
適切な供給につながります。
事例① 歯医者の供給を分解してみる
歯医者を例に考えてみます。
「歯を治したい」という需要があったとき、
考えられる供給の流れはこうです。
- 予防
- 診断
- 治療(削る・抜く)
- 治療後の補綴(埋める・入れ歯)
- 再発防止・維持管理
この全てを一人の歯医者が担う必要はありません。
実際、歯科衛生士が中心となり、
予防とメンテナンスだけを専門に行うクリニックも存在します。
そこでは、
- 虫歯を削らない
- 抜かない
- 治療は行わない
代わりに、
- 歯を悪くしないためのケア
- 正しい磨き方の指導
- 異常があれば治療を勧める
ここまでを責任範囲としています。
「治さない歯医者」は無責任でしょうか。
私はそうは思いません。
責任の範囲を明確にした、誠実な供給だと思います。
事例② パーソナルジムの供給を分解してみる
次に、パーソナルジムを考えてみましょう。
「痩せたい」という需要も、
一言で済ませられがちですが、実際はとても複雑です。
- 標準体型までなのか
- 細マッチョまで鍛え上げるのか
- 食事指導はどこまで行うのか
- 糖質制限か、脂質制限か
- サプリメントの提案まで含むのか
- 維持管理まで責任を持つのか
これら全てを一つのジムが引き受ける必要はありません。
例えば、
- 女性のくびれ専門
- 短期間で標準体型まで
- 食事はアドバイスまでで管理はしない
こうしたポジショニングは、
責任範囲を明確に宣言している供給です。
逆に、「どんな人でも絶対に痩せさせます」と言い切る供給は、
期待値を膨らませすぎてしまいます。
結果として、
- 成果が出なかったときの責任が曖昧になる
- 提供者が消耗する
- 顧客も依存しやすくなる
という歪みが生まれやすくなります。
なぜ「全てを叶えようとする供給」は壊れやすいのか
顧客の要望を全て引き受ける供給は、
一見すると親切に見えます。
ですが実際には、
- 責任の所在が不明確になる
- 成果と努力の境界が曖昧になる
- 関係性が対等でなくなる
こうした問題を内包しています。
これは、
いわゆる「情弱搾取」と呼ばれる構造が生まれる土壌でもあります。
この点については、
別の記事で私自身の線引きを整理しています。

適切な供給はPMFにつながる
プロダクトマーケットフィット(PMF)とは、
商品やサービスが市場にうまくハマっている状態を指します。
PMFが分かりにくいのは、
「売れた・売れない」という結果だけで語られがちだからです。
本質的には、PMFとは、
責任範囲が明確な供給が、
それを必要とする人にだけ残った状態
だと私は考えています。
全てを叶えないからこそ、
「ちょうどいい」と感じる人に届く。
これが、適切な供給がPMFにつながる理由です。

納得解コンサルティングの立ち位置
私が行っている納得解コンサルティングも、
この考え方を前提にしています。
- 人生やビジネスの「診断」と「整理」
- 思考の癖や判断のズレを見つける
- 自分で選べる軸を整える
ここまでを責任範囲としています。
結果そのものを保証することはしません。
それは、本人の人生だからです。
この姿勢は、
私自身の仕事のスタンスとも深く関係しています。

まとめ|全てを叶えないという誠実さ
適切な供給とは、
顧客の人生を背負うことではありません。
自分が責任を持てる場所に立ち、
そこから一貫して価値を提供し続けることです。
全てを叶えないという選択は、
冷たい判断ではありません。
むしろ、
長く誠実に関わり続けるために必要な線引きだと思っています。
この考え方が、
あなた自身の供給を見直すきっかけになれば幸いです。
